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甘く、苦く

第89章 翔潤【純粋に】



潤に抱かれながら、
ぼんやりと真っ暗な空を見ていた。

電気をいくら落としても、
目が慣れてしまうから、
潤をちゃんと見ることができないんだ。

無意味な振動が腰に響いて、
規則的に甘い声が漏れる。

そんな俺を見て、
満足そうに潤は微笑む。

いい顔をしてる。

仕事をしている時よりも、ずっと。

だから、ずっと俺だけを見てればいい。

俺だけのことを、ずっと。


・・・


「……おはよう」


昨夜のことが思い起こされて、
まともに顔を見れなくなってしまった。

意地悪な考えをしているのは俺の方だ。


「おはよう、ご飯もうすぐできるよ」

「あぁ、ありがとう」


動揺してしまって、
やはり目を合わせられない。

そんな俺の素振りを気にすることなく、
いつも通りの朝食を迎えた。

いただきます、と小さく呟いてから
即席の味噌汁を啜った。


「……しょっぱい…」

「あ、ごめん。お湯少なかった?」

「…うん、ちょっとしょっぱいかも」

「お湯、足そうか?」

「いや、自分でやるよ」


立ち上がって、キッチンに向かう。

「お湯じゃなくなってるかも」

と、潤の笑いを含んだ声が聞こえた。


「舌、火傷したくないから、
ぬるいくらいでいいよ」

「そう?」


あえて返事は返さなかった。

返さなかった、というよりも、
なんて返せばいいのかわからなかった。

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