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甘く、苦く

第89章 翔潤【純粋に】



「ごちそうさま。
翔さん、先に出るね」

「あぁ」

「あ、また二宮先輩に
添削頼んでもいいかな」

「お前のこと気に入ってるみたいだし、
いいんじゃない」


素気ない返事。

ネクタイを少し緩めにして、
ソファーに投げていた
紺色のジャケットを羽織る。


「翔さんさぁ」


突然真横から聞こえた声に
びっくりして、一歩後退りした。

そっと額に温かい手が触れた。

何をされているのかわからなくて、
混乱していたら

「熱はないみたいだね」

と潤のホッとした声が
頭上から聞こえた。


「熱…?」

「いや?なんかぼーっとしてるし、
目も合わせてくれないからさ」

「…ごめん、心配かけて」

「いや?ゆっくり会社来てよ。
まだ寝惚けてるんじゃない?」

「…そう、かな…」

「うん、気ぃ遣わないでよ。
家の中じゃ先輩後輩関係ないし、
弱いとこ見せてほしいな」


潤のその言葉に、
鼻の奥がツンとした。

いくら感じ悪くしたって、
コイツは俺のことを想ってくれている。

しかも、具合が悪いんじゃないかと
心配までしてくれるんだ。

こんなにも俺を、
大切にしてくれる潤のことを
信じ切れないのはなぜだろうか。

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