
甘く、苦く
第89章 翔潤【純粋に】
松本side
朝起きてから、
なんだか様子がおかしいなと思った。
ぼーっとしているし、
なんだか食べるのも遅いし。
昨日のアレで、
風邪でも引いてしまったのか。
そんな不安が過ぎったけれど、
フラフラしていないし、
スーツに着替えた途端に
顔がシャキッとした。
けれど、俺が声をかけた瞬間に、
あからさまに動揺していた。
やっぱり具合悪いのか?
そう心配したけれども、
「大丈夫」の一点張り。
翔さんがそう言うんだったら疑えない。
熱もないみたいだし。
きっと寝不足なんだろうな。
今日は早く帰ってきてくれるかな。
「いってきます」
いつも決まって、
先に出るのは俺の方だ。
二宮先輩に昨日の資料を確認してもらう。
昨日も一昨日も、ずっとずっと
怒られっぱなしだ。
詰めが甘いとか、
取引先に対して失礼だとか。
『お前は最後の方になると
中途半端になるんだよ』
昨日はそう釘を刺された。
確かにその通りかもしれない。
でも昨日は珍しく、
上機嫌な時があった。
二宮先輩と翔さんは、
決まってお昼を一緒に食べている。
なぜだか昨日は一緒にどうか、
とあの二宮先輩から誘われた。
さすがに気が引けて、
遠慮したけれど。
『つれねぇヤツ』
と、翔さんの口癖を口にしてから
その場を去った。
仲良い人の口癖が移るって、
本当なのかな。
なんてぼんやりと考えていた。
…って、昨日のことを
なんでこんなにも思い出してるんだ。
そういえば…
二宮先輩には恋人がいるんだろうか。
翔さんのこと好きだったりして…。
いやいや、それはないか。
でも───
いや、そんなわけないな。
