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甘く、苦く

第89章 翔潤【純粋に】


なんだろう、と考えながら
リビングに戻る。

今日何杯飲んだかわからないコーヒー。


「あ…」


見慣れたパッケージを手に取る。

これ、俺が好きだって言ってから、
ずっと買ってくれてたんだ。

潤は高いコーヒーをよく飲むけど、
俺には違いがよくわからない。

思わず、笑みが零れた。


・・・


それから潤が帰ってきたのは、
一時間半後の七時半過ぎ。

夕飯の支度でもしようと思ったけど、
もし潤が何か買ってきたら――なんて
思って結局何も作っていない。


「遅くなっちゃった。ごめんごめん」

「別にいいけど。どこ行ってたの?」


そう言っても、はぐらかされるだけだった。

でも自然と、不安ではない。

なぜなら、この上なく潤が上機嫌だからだ。

きっと、いい報せがあるんだ。

そう思っていよう。

だから俺も、笑っていよう。


「ケーキ、何個か買ってきたんだけど」

「わっ、こんなに?」


彩り鮮やかなケーキが数種類。

それも、かなり高そうだ。

潤は高いものが好きだなあ、なんて
呆れながらもお礼を言う。


「礼を言われるような事じゃないよ。
恋人の誕生日だから」


…その恋人を一人にして
どこに行ってたんだか。

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