
甘く、苦く
第89章 翔潤【純粋に】
松本side
あっぶねー。
バレたかと思った。
翔さんは寂しそうだったし、
早く受け取って早く帰ろう…。
そう思ってタクシーを捕まえ、
行き先を告げた。
本当だったら、
ムードのあるレストランで
渡そうと思っていたもの。
サプライズに慣れていない翔さんに、
渡そうとずっと前から思っていたもの。
煌びやかな店内で、
ふいに女性に声をかけられた。
一ヶ月前にも会った人だ。
「松本様ですね。
できていますよ」
「ああ、ありがとうございます」
小さな白い箱に、
水色のリボンが施されている。
自然と頬が緩んでいたのか。
「どうぞ、お幸せに」
と言われた。
その女性はにっこりと
俺に向かって微笑んでから
その箱を丁寧に袋に入れた。
それを受け取ってから、
ありがとうございます、と呟き、
店を出た。
先程と同じようにタクシーに乗り込み、
翔さんの待つ家に向かう。
喜んでくれるだろうか。
翔さんのことだから、
泣いてしまうんじゃないか。
また、口元が緩んでしまったので
慌てて押さえた。
