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甘く、苦く

第90章 磁石【色彩】


人っていうのは、
忘れたくない一瞬ほど忘れてしまうんだ。

そういうつくりをしているのは、
何故だろうか。

一時の感情は、きっと保てない。


「…ありがと」


ブランケットを持ってきてくれた翔さん。


「ん、いいよ」


ふたりでは足りない。

もっと大きいサイズの
ブランケットじゃないと。

それでも、肩を寄せ合い、
温もりを共有した。

三日後には、もう翔さんはいない。

隣の翔さんの様子を窺うと、
鮮やかな光を放つ画面を
食い入るように見ていた。

やっぱり来ない方が良かったかな。

今更後悔。


「翔さん」

「……ん?」

「俺、邪魔かな…」


不安げに放った声は、
自分でも驚くほど泣きそうだった。

違う。

そんな顔させたいわけじゃない。

口にしてしまったことで、
また後悔した。

目を合わせていられなくて、
ふいっと視線を逸らした。

それでも尚、
翔さんは俺の横顔を見ている。

空気が動いた。

と思ったら、俺は抱きしめられていた。

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