
甘く、苦く
第90章 磁石【色彩】
「ね、ちょ、なに…」
彼特有の匂いがして、
思わず目を細めてしまう。
プライベートでは、
意外と口数の少ない彼なりの愛情表現。
この頃、彼の体温を感じると
無性に安心してしまうんだ。
「そんなことないよ。
それよりもニノは喋らない俺といて
つまんなくないの?」
「つまんないわけないじゃんっ」
“何日ぶりの二人きりだと思ってるの…”
漏らした声は、嗚咽にも似ていた。
恥ずかしくなって、
翔さんの体から離れた。
それでも、
翔さんはまた俺の体を引き寄せて
抱きしめた。
そんな行動を何度か繰り返した後、
翔さんにキスされた。
この人のキスは、本当に優しい。
身も心も蕩けてしまうような、
優しいキスをする。
「…ん、ふ…」
抵抗しようと翔さんの肩を
押し返していた手には、
いつの間にか力が入っていなかった。
そして
目の前に広がる翔さんの顔と、
天井を見てハッとした。
「なんで押し倒されてんの…」
不満を漏らせば、
困ったように笑ってから。
「あと何日か会えないし、
シたいなって」
「……ぅん、」
俺もそう思っていた。
