甘く、苦く
第42章 磁石【先生と俺】
火事。
家庭科室からの火災。
一瞬で騒がしくなる校舎内。
――は?
状況が理解できてないものや(俺ね)
泣き叫ぶもの、的確な判断をとるもの。
…なんだよ。俺の人生これ?
…そうだ。二宮は?
あいつ、まさか…
家庭科室から保健室は
案外近いんだ。
「あ、櫻井先生っ!
今行ったら危険です!先生!」
教頭の声なんて無視して
保健室まで走っていた。
こんなに走ったのは
ひさしぶりかもしれない。
「二宮!いるか!?」
保健室に入るとベッド付近に
人影が見えた。
…あれは二宮。
――な、ハズ。
近寄るとなにかを抱えて
蹲っていた。
……あぁ、もうおんぶでも抱っこでも
なんでもしてやるよ。
「二宮!起きろ!」
「ん、せんせ?」
とろん、とした瞳。
く…今は、今は我慢。
二宮を担いで窓から外に出た。
保健室って一階だし。
二宮は俺の背中の上で
匂いを嗅いでいた。
…今だけ、許してやるか。