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甘く、苦く

第46章 磁石【move on now】session1





怖い。



怖いんだ…。



おにーさんの背格好があの人と
同じ……だから。



「二宮?」

「……ごめんなさい!
もう、やめて!来ないで、放っておいてよ…」



もう俺を解放して。



一人にして。



死んだっていいから。



「二宮、おいで…」



おにーさんが両手を広げて俺を待ってる。



俺は温もりが欲しくて、
おにーさんの腕に抱かれた。



「大丈夫。心配するな。
お前は俺が面倒見るから…」

「うん…っ」



おにーさんが時計を見て、
「あっ、やべ」と声を出す。



俺がおにーさんを見上げたら、
おにーさんはスーツを着始めた。



「ごめん、会社の時間だから…」

「うん…」

「帰ってくるから、安心しろ」

「…うん」



泣きそうになった。



おにーさんの声が優しすぎて。



俺の中の黒い汚物を溶かしてくれた。



「じゃ、行ってくるな」

「頑張って…」



おにーさんを見届けて、
寝室に戻る。



あ…そうだ。



今日は大野さんと約束があったんだ。



……栄養失調、か…



今日はやめておこうかな。



「…あ、大野さん?
今日はやっぱり無理かも。」

「ん、わかった。大丈夫?
元気ない声してるけど……」



…なんでわかるのかな。



この人は本当に優しい。



「あー、大丈夫だから。
うん、本当に。うん。

じゃあ、また電話して」

「うーい」



電話を切ったら、
なんかお腹が空いてきて。



…カップラーメン、はないし…



栄養失調…こんな時に会社行くおにーさんって
酷すぎない?



寝てれば治るって思ってんのかな…



…食欲ないし…



「…はぁ…」



ため息しかでないよ。



…おにーさん、本当に帰ってくるのかな。



あ、卵焼きでも作ろうかな。



たしか、あったよね?



…おにーさん、朝ご飯食べたのかな…



お弁当、とか…



って!



俺は新妻か!

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