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甘く、苦く

第46章 磁石【move on now】session1





「…ん」



目を開けると、
そこは大野さん家のベッドの上。


あ、そっか。
大野さんとシたんだ。



「あ、二宮くん起きた?
腰、痛くない?」

「あ、はい…大丈夫です。」



腰を擦りながら
俺は立った。


痛くないよ。全然。



「あ、お昼ご飯作ったんだよ。
一緒に食べよっか?」

「いいんですか?」

「ふふ、敬語じゃなくていいよ」



ふわふわっと
笑う大野さん。


…奥さんが亡くなるなんて、
気の毒に。


まだ20代なのに。
俺だったら耐えられない。


こんな広い一軒家に
このまま一人で暮らしていくの?


「二宮くん…?
お腹痛い?腰?」

「大丈夫…です」



大野さんは濡れた布を持ってきて
俺の目元を拭いた。



「なんで泣いてるの?」

「…それ、は…」



泣いてなんか…


どうしてだろう。

この人は俺のことを
わかってくれる。


辛いときとか、悲しいときとか、
いっつも俺の話を聞いてくれる。



「おーのさんは…」

「ん?」

「…一人で暮らしてて辛くない?」



俺が大野さんを見つめて言うと
大野さんはちょっと顔を歪めた。


けど、すぐにいつもみたいに笑った。



「ここにいれば…見守っててくれると思うんだよ。
アイツと過ごした唯一の場所だから手放したくないんだ。」

「そっ、か…」



そうだよね。
そうだよな。

大野さんの奥さんは
俺のことを息子みたいに
かわいがってくれたんだ。


でも、病気で亡くなってから
大野さんと俺の関係は変わった。

家族(仮)から、いつの間にか、
客と店員みたいな関係になった。


俺の家族…は、ある日突然現れて
血なんて繋がってない兄貴を連れてきた。


思い出した途端、
頭が痛くなった。
吐き気がした。
呼吸ができなくなった。



「二宮くん!!
だ、大丈夫!?」



あぁ、心配しないで。

大丈夫…だから………




俺は意識を手放した。

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