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甘く、苦く

第49章 磁石【move on now】session 2

二宮side




…ここどこだよ。
俺、絶対迷った…。

この歳で迷子って、
恥ずかしい…。


櫻井さんの弁当をもって
エコバックぶら下げて、
そのへんうろちょろしてる俺。



なんか高層ビルばっかり並んでて
全然わかんねえんだけど。

なんだここ。


異世界かよ。

目眩がする。


人が多いせいか、
ひさしぶりに外に出たからなのか。

もう俺の体は
疲れきっていた。



「はぁ…。」



ため息は車の音に
掻き消されていく。

もう…帰りたいよ。


俺が泣きそうになりながら
歩いていると前から見覚えのある人が
俯きながら走ってきた。



「まー、くん…?」

「…え?」



呼び止めてしまった。

…あ、仕事中かな。



「あ、和くん…。」

「まーくん、仕事?
ごめんね。邪魔しちゃった?」

「いや、全然そんなことは
ないんだけど…。」



この前コクられたからか、
お互い少し気まずい。


まーくんがなかなか
切り出さないから
俺から言ってやった。



「俺、ね、好きな人がいたの。
それで…この前、ってか、
昨日なんだけど付き合うことになって…。

その人とは前から同居してて。
まーくんが一緒に暮らさない?って
言ってくれたとき、すっごく嬉しかった。

だけど…ごめん!
せっかく言ってくれたのに…。」

「…いいよ。大丈夫。」



そう言ってくれた
まーくんの顔は、
今にも泣きそうだった。


…そんな顔、
させたくないのに。



「そっかあ。おめでとう。
ちなみにその人の名前は?」

「…知らないと思うけど…。
櫻井さんって言うんだ。」



俺が照れながら
その名前を口に出したら
明らかにまーくんの顔が曇った。



「…櫻井、翔…?」

「え、あ、うん。
そうだけど…友達?」

「…あぁ、うん。
同じ会社だから。」



…櫻井さんと、
同じ会社?

なら…。



「どこ!?」

「え?」

「その会社!」

「えっと…その交差点を
右いって郵便局を曲がったとこ。」

「…ありがとうっ!
またね!まーくんっ!」



俺はまーくんにお礼を言って、
櫻井さんの会社へと向かった。

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