甘く、苦く
第49章 磁石【move on now】session 2
郵便局を曲がったら
でかい会社がどんっと
建っていた。
すげぇ…。
こんなとこで櫻井さんは
働いているのか…。
「…すご。」
思わず声に出していた。
清掃員のおばちゃんに声をかけて
俺は会社にいれてもらった。
あ、裏口からね。
櫻井さんは部署の入り口で
俺を待っていてくれた。
「二宮っ…」
「あ、櫻井さんっ」
俺は飛び付きたい衝動を
我慢して笑顔だけ振り撒いた。
「…そんな顔すんなよ。
…もう。馬鹿。」
「馬鹿じゃないもん。
ほら、弁当だよ。」
「ありがとう、二宮。」
櫻井さんはにこっと
爽やかな笑顔を残し、
俺から離れていった。
…あーあ、もうちょっと
一緒に話したかった。
だけど、これから
家に帰んないと。
「…寂しい。」
ぽそっと呟いた声さえも
騒音に消された。
ノロノロ歩いて、
お散歩みたいになってて。
ちゃんと覚えとかないと、
また迷っちゃうから。
「…あ、やば。」
一回家帰んないと、
買ったものが悪くなっちゃうや。
俺は櫻井さんち…いや、
俺の家に向かってゆっくり歩く。