甘く、苦く
第49章 磁石【move on now】session 2
それから暫くの間、
俺は掃除を手伝った。
大野さんは終始、
笑顔だった。
「じゃあね、二宮くん。」
「…また。」
「人事異動っつっても、
そんな遠く行かないよ?」
「…でも、この家は…。」
「あぁ、この家?
離れないよ。」
…え?
「じゃあ、なんで片付け…」
「ほら、アイツに怒られそうだから。
夢枕にでも立たれたら嫌だもーん。」
…大野さんらしいや。
よかった。
引っ越さなくて。
嬉しくて少し頬が
緩んでいた。
「じゃあ――「二宮くん。」
大野さんは俺を呼び止めて、
優しく、触れるだけのキスをした。
慌てて唇を触った。
まだ唇に残る温もり。
「櫻井さんと
付き合ってるのにごめんね?」
「…馬鹿。」
「へへ、またね。」
「はい、また。」
大野さんに頭を下げて、
俺は来た道を戻った。
…もっと早く…
若しくは遅く大野さんちを
出ればよかったのに……。
そしたら、こんなことには
なっていなかったのかもしれない。
「な…んで…。」
なんでアイツがいるの?
俺を探しにでも来たの?
「和也じゃん。」
「ち、違います…。」
「間違えるわけないじゃん。
だって、家族なんだから。」
目眩がした。