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甘く、苦く

第49章 磁石【move on now】session 2






「あっ…。」

「ねぇ、その彼氏のこと、
教えてくれる?」

「嫌、だ…。」



目を合わせるのも嫌で
俺は俯いていた。


潤の手が肩に置かれ、
頬にキスされる。



「…ねぇ、教えて。
名前は?」

「…。」

「ねぇ、和也。」

「…家に帰りたい。」

「言えってば。
それくらい教えてくれたって
いいだろ?家族なんだから。」



家族なんだから…?

…違う。



「家族なんかじゃない。
お前となんて、血が繋がってない。」



俺がそう言いきったら、
頬に激痛が走った。


潤の目が俺を冷たく
見下ろしてる。



「言えってば。誰?」

「……櫻井、さん…。」

「へぇ、櫻井さんねえ。
保険会社の?」

「っんで知って…。」

「家の担当の人。
電話番号も知ってるよ?

なんなら呼ぶ?」

「やだ…」



こんなの、櫻井さんに
見られたくない。



「櫻井さんとはシた?」

「シて…ない。」

「最近シたのはいつ?」

「…忘れた。
だって仕事だから…。」

「売春なんかしてるの?」



…怖い。

潤の瞳が…怖い。



「…櫻井さんと
付き合ってるから
もうしない…やめるつもり。

だから…潤ともできない。」

「それはできない。
だって和也は俺のだから。」



そう言って潤は俺の手を掴み、
家を出た。



「どこ…行くの…?」

「どこだと思う?
ひとつしかないと思うけど?」



…まさか。

いや、でも俺の家は
知らないはず…。



「和也んち。
知ってるんだよねー。」

「…え?」

「ふふ、ほら、行こ。」



…嫌だ…。

櫻井さんが帰ってくるまで
あと、三時間。

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