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甘く、苦く

第50章 お山【君のためにできること】

櫻井side



…そうだよな。うん。

結婚なんて早すぎる。

それに俺たち、男同士だし。

親たちが許してくれるなんて
絶対に有り得ない。


「…ちゃん、翔ちゃん?」

「あ、ごめん。なに?」

「もー。ほら、支度して。
遅れちゃうよ?」


…そうか。

今日はレギュラー番組の
収録の日だ。

俺はソファーから立ち上がり、
支度を始めた。


…支度をしていても、
さとっさんのさっきの顔が
焼き付いて離れてくれなくて。


『いくらなんでも、まだ早いよ。』


あの困惑した顔。


さとっさんは…
俺と結婚なんてしたくないのかな。


「翔ちゃーん?」

「あ、今いく。」


カバンを掴んで、
玄関まで走った。


さとっさんは「珍しく遅かったね」
って微笑んでくれる。


…さとっさんがくれる
笑顔や言葉。

それに偽りなんてないから。


うん。そうだ。
ないない。


仕事仕事。


「じゃあ、いくよ。」

「うん。あ、」


「翔ちゃん」って
さとっさんが笑顔で言うから
俺はさとっさんの方を見た。


そしたら、柔らかい唇が当たった。


「仕事、頑張ろうね。」

「う、うん。」


恥ずかしくて、
顔を見れなかった。


助手席に座るさとっさんは
楽しそうに俺と話してくれる。

すっごい、幸せそうだ。


…結婚しなくても、
このままでいいのかもな…。


「翔ちゃん、信号青だよ?」

「あ、うん。」


危ない危ない。

クラクションを
鳴らされるところだった。


さとっさんは「疲れてる?」
って柔らかく笑う。


「運転変わる?」

「え、さとっさん
免許持ってないでしょ?」

「うん。」

「じゃあだめじゃん?笑」

「んふふ、そうだね笑」


リラックスできる空間。


…あ、そうか。

俺が疲れた顔してるから
リラックスできるように
してくれてるのか…。


さとっさんの些細な
気遣いが嬉しくて、
頬が緩んだ。


「さとっさん、」

「ん?」

「好き。」

「んふふ、俺も好き。」


朝のこの時間が、
一番好き。

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