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甘く、苦く

第53章 磁石【move on now】session 3

櫻井side



まだすぅすぅと寝息が聞こえる。

暑いのか、布団を蹴飛ばしてある。
そんな光景も、見慣れた。


俺は、今日、日本を飛び立つ。







話は随分前から決まっていた。

もともと、保険会社なんて
勤めるつもりはなかった。


採用されたのがここだったから、
仕方なく仕事をしていた。


でもこの前、やっと決まった。
俺の本当にやりたかった仕事。


海外青少年協力隊。

高校の頃から興味を持ち始めて、
それからずっと試験を受けてた。



受かったときは、
そりゃ嬉しかった。

だけど、二宮と別れるのは辛いし、
二宮も辛い思いはさせたくなくて。

言ったら悲しむかなって思って、
口には出さずにいた。


でも、いざ旅立つとなると、
この隣の温もりが愛おしい。

柔らかくて細い、白い手足。
華奢な肩。


どこまでも自分勝手な俺を、
許してくれ。




「…行ってきます…。」


いつ帰ってくるかなんて、
そんなのはわからない。

だけど、俺がやりたかったのは
絶対にこれだから。


部長も応援してくれてる。
雅紀だって。

家族も、友達も。


その期待を裏切るわけにはいかないんだ。
ごめんな。

こんな自分勝手な俺なんて、
嫌いになってくれ。
呪ってくれ。忘れてくれ。








日本を飛び立って、
もう一年。

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