甘く、苦く
第53章 磁石【move on now】session 3
一日たりとも、
二宮を忘れたことはない。
いつも、頭の片隅に
「翔さん。」
って笑うアイツがいる。
その笑顔は、ピースのように
バラバラになり、消えていく。
「櫻井。」
「ん?」
「またぼーっとして…。
ほら、行くぞ。」
「おう。」
相方の松岡が俺の服を引っ張る。
「伸びる!」
「お前が遅いからだろうが!」
「へいへい…」
ぼーっとしながらも、
あとをつく。
あと半年の辛抱だ。
でも………
二宮の温もりが恋しい。
「え?」
「だから……帰れって。
お前の恋人が…」
「二宮が………?」
「…言いにくいんだが、
重態だって…」
二宮が?
…え?
これは、現実。
夢なんかじゃない。
「…でも俺には、仕事が…」
「どっちが大切なんだ?
仮に、お前の恋人が死んだとする。
そうすればお前は、後悔する。
『あぁ、あのとき行ってやればよかった。
会いに行けばよかった』ってな。」
「…。」
ごもっともすぎて、
なにも言えない。