甘く、苦く
第53章 磁石【move on now】session 3
いつからか、この消毒の匂いがする
部屋にいる。
いつだったかなぁ…。
半年前くらい?
翔さんがいなくなってさ、
寂しかったんだよ。
体は売らないって、
約束したのに。
自棄になって、
体を売ったんだ。
一番売りたくない人に。
アイツに。売った。
「和から来るなんて
珍しいじゃん?」
「和って言わないで…」
お前に和なんて呼ばれたくない。
和って呼んでくれる人は、
一人だけでいいんだ。
『かず』って呼んでくれるのは、
翔さんだけでいい。
「来たってことはいいんだよね?」
「…お金だけ出してくれれば。」
偽りの温もりだっていい。
今の俺には必要だ。
アイツの首に手を回して、
深いキスをする。
「ん、ふぁ、」
まだ、足りない。
「ね、もっと…」
「冷めた。」
「…え?」
「俺さぁ、和が嫌がるから
シたかったんだよ。
だけどさ、今のお前じゃ満足できねえよ。
全然嫌がんねえんだもん。」
「そん、な…。」
体が震える。
「や、やだ。
帰らない…。」
「じゃあ、
前みたいにして欲しいの?」
潤の手が首にかかる。
吸い込む空気がなくなる。
苦しい。…苦しい。
「殺して欲しい?」
「はっ、ぁ、」
なにも言えない。
涙で景色が歪む。
アイツの顔も。
…あ、意識飛ぶ。
そう思ったとき、
首にかかってた力が抜けた。
「げほっ、おぇっ、」
息を吸う暇なんてなかった。
まだ柔らかい蕾に、
アイツのが押し入ってくる。
「死ねよ。」
また、ゆっくりと
首に手がかけられる。