甘く、苦く
第56章 翔潤【隣にいたい】
夜だからか、
来たことのない場所のように
感じてしまう。
「…ここ、どこ……?」
今、自分がどこにいるのかも
全くわからなくて。
だけど、いっそのこと翔くんのことを
忘れられたら、なんて
考えてる自分もいて。
だったら、帰らなくても
いいかな、って。
もちろん、翔くんのことが好きだ。
誰よりも好きだ。
大好きだ。
心の内に、
閉まっておけないくらい、
翔くんの顔が、声が、
すべてが好きなんだ。
「…翔くん…」
もっと大きな声で、
翔くんって言いたい。
……翔くん、大好きだよ。
もっともっと近くに
いさせてよ。
「…翔くん、」
声に出す度、
好きって気持ちが募る。
……俺が、女の子だったら
よかったのにな。
そしたら、翔くんの隣で
笑っていられたのかもしれない。
特別な存在になれたのかも
しれない。
今更そんなこと、
変えられるわけないのに。
これが、運命(さだめ)なんだ。