
甘く、苦く
第56章 翔潤【隣にいたい】
ほんと、ここどこだろ。
見覚えのあるような
ないようなところ。
…あぁ、そういえば。
小学生の頃、
親と喧嘩して家飛び出して。
あれは確か…
翔くんとお泊まり会を
してたときだったけな。
今思えば、
すっげえ些細なことだった。
そのときも、
今みたいにどこにいるか
わかんなくなって。
……翔くんが、
助けに来てくれた。
「…懐かしいなぁ」
泣いてる俺をあやしてくれて、
おんぶして家まで
行ってくれたんだっけ。
それが嬉しくて、
…背中が温かくて。
起きた頃には、
もう、日が昇ってた。
「…翔くん…」
ぴろりんっと楽しげな音。
スマホを開いてみれば、
そこには翔くんの名前ばっか。
…着信履歴、
全部翔くんじゃん。
メールも、全部全部
翔くん。
迷惑かけてんだなって
痛感した。
…今も昔も、
俺は変わってないんだろうな。
……ただの、
可愛い弟、なのか…?
「潤っ……!
お前、バカっ!」
「しょ、くん……」
汗だらだらの翔くんが
息を切らしながら
俺を睨んできた。
「…あほか。お前は。
ここ、どこかわかってんの?」
「…ううん。わかんなくて…
こわ、くて…っ。」
「ぅおっ…ちょ、泣くなよ。」
「うえぇ…しょぉーくーん…っ…」
翔くんに抱きつくと、
汗と、ほんのりシトラスの匂い。
…大好きな、匂い。
俺から走り出したくせに、
道に迷って。
しかも、安心したら
泣き始めて。
…だっせえヤツ。
