甘く、苦く
第56章 翔潤【隣にいたい】
日曜日。
予定よりも
早く来てしまった潤の家。
…俺、スゲー期待してる。
とか、思ってしまった。
予定の時間になっても、
潤はなかなか来なくて。
どうしたんかなーって
呑気に考えてたけど、
さすがにおかしいなって思って。
「おはよーございまーす。」
「あらっ、翔くん?
…ほらー!潤っ
翔くん来ちゃったわよー」
おばさん、相変わらず声が大きい。
『わかってるー』
って、不機嫌そうな
潤の声が聞こえた。
…潤も、相変わらず
朝は弱いんだな。
そんなこと思ったら、
頬が緩んでしまう。
「翔くん、玄関じゃあれだから…
あがってちょうだい。」
「お邪魔します。」
「ふふ、いいのよ。
楽にしててね。」
リビングに誘導されて、
ソファーに腰掛けた。
…全然、配置変わってない。
テレビも、机も、椅子も、
全部過去の記憶通り。
潤の家に来たのは、
もう何年振り?
中学に入ってから、
父さんが厳しくなって
なかなか友達の家にも、
親しい潤の家にも、
来れていなかった。
それでも、毎年家族ぐるみで
花火をしたりバーベキューしたり。
それなりに、会ってはいた。
潤が中学に入ってから、
俺は二年生になって。
父さんが受験を意識するようにって
無理矢理入れられた塾。
嫌でも、部活を早退してでも
ほぼ毎日行っていた。
思えば、俺は頑張っていた。
それなのに、
毎日毎日叱られ、
テストの点数が90点を
キープしてないと怒鳴られ。
……なんつーか、
面倒だった。
だけど。
潤と話してるときは、
おかしいくらい落ち着いて。
家にいるよりも、
潤といた方が楽しくて。
学年が違うから、
なかなか会えなかったけど。
塾がない日は一緒に帰ったっけ。
「しょ、しょーくんっ
待っててっ…」
すごく急いでる。
…コーヒーなんか、
飲むようになって。
ちょっと大人っぽく見えた。