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甘く、苦く

第57章 お山【大切な君へ】




…あれから、
もう何度目の夏?




迎えに来てね、って
言ったのに。


なんで来てくれないのさ。
ひどいよ。

俺だって、…ここ数年、
智くんを我慢してたのに。

…勉強頑張って、
智くんと同じ大学に入ったのに。
学科は違うけどさ…


美的センスのない俺には、
智くんと同じ学科なんて
入れないよ。




「なんで…



……え?」


あれは、

あの後ろ姿は。


ふわふわと揺れる茶色い髪の毛。

…あれって、

え?

でも、なんで?



…智くん……?


その後ろ姿を、
気付けば俺は追いかけてた。


でも、途中で見失ってしまった。

…あぁ、なんで…。

俺から逃げないでよ。



「…智くん…っ!」


声を上げても、
何も変わらない。


…だって、
会えるわけじゃない。

もがけばもがくほど、
智くんが恋しくなって、
でも、会えないから…

余計に悲しくなって
恋しくなって。





…ねぇ、

智くん。





今、どこにいて、
なにしてるの?

貴方の瞳には、
なにが映っていますか…?

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