(仮)執事物語
第2章 柔らかな炎〔葛城〕
「そんなにニコニコされて……。私よりもブレスレットの方が貴女を喜ばせる事が出来るみたいで、嫉妬を覚えます」
「え?」
彼の言葉の意味を図りかねて、私は思わず訊き返した。
「何でもございません。そろそろ車に戻りましょう」
そう言うと葛城さんは、私の手を引いて歩き出す。どうしたと言うのだろうか。変な葛城さん。
私は彼に手を引かれて、駐車場に戻ると車に乗り込む。
「今度は何処に行きましょうか?」
私がそう尋ねると、彼は何も言わずに車を走らせた。いつもの笑みが顔から消えていて、何だか怖い。
一体どうしたと言うのだろうか。何か怒らせる事を言ってしまったのだろうか。そんな事を考えると、私も自然に無口になってしまった。
沈黙状態の続く車は、首都高に入る。
もうデートは終わりなのかと寂しく思いながら、私は窓の外の流れる景色を無言で見つめていると、車が邸に向かっていない事に気付いた。
「葛城さん? 一体何処へ行く気なの?」
私が不安そうに尋ねると、彼はハンドルを握っていない方の手を私に伸ばし手を握る。
「二人きりになれるところです」
そう言うと彼はアクセルを深く踏み込んだ。
グンとスピードを上げた車は、首都高の環状線を抜けると羽田線へと入り、次に横羽線へと走って行く。
どうやら神奈川方面へと向かっている様だ。恐らく、葉山の別荘に向かっているのかも知れない。