(仮)執事物語
第2章 柔らかな炎〔葛城〕
その私の予想は大当たりで、渋滞にも捕まらなかった車は、1時間程で葉山の別荘へと辿り着いた。
ここは定期的に邸の誰かが管理に来ている程度で、常駐する管理者は居ない。
そしてここを管理しているのは、執事である葛城さんだ。鍵を持っているのも彼。
私達は途中で食料等を買い込み準備を整えてから、別荘の扉を開けた。
つい先日、大掃除をしたばかりだと言う室内はとても綺麗だった。
「人が居ないから、冷えているでしょう?直ぐに火を起こしますので、それまでこれで暖を取っていて下さい」
そう言って葛城さんは、どこからか持って来たブランケットを私の肩に掛けてくれる。
彼は、裏から薪を運んでくると、暖炉にそれを積み上げ火を起こした。
小さな炎は揺らめきながら、ゆっくりとその範囲を広げて行く。そして、次第に大きく勢いを増すと薪がパチパチと音を立てて爆ぜた。
「お待たせ致しました。こちらへ……」
そう言うと葛城さんは私に手を差し伸べる。私はその手を取ると、彼の隣に腰を下ろした。
外はすっかり陽が落ちて、室内は薄暗い。私は、揺らめく暖炉の中の炎に照らされた葛城さんの横顔を盗み見る。
陰影のハッキリした整った顔。
ここに来るまでに始終無言だった葛城さん。炎を見つめる目に何かの感情の色はないだろうかと、必死に見つめる私。