(仮)執事物語
第14章 【特別編】ココロとカラダ〔高月〕
晩餐会の間中、僕は気が気じゃなかった。胸に付けられた玩具が、いつ震え出すか分からないからだ。折角、シェフが腕を奮ってくれた料理も味わう余裕がない。僕にしてみれば、久し振りの実家の味なのに。高月の方をチラリと見れば、涼しい顔をして他の執事やヴァレット達と、給仕に勤しんでいた。
(後で文句を言ってやる……)
僕は高月を睨みながら、心の中でそう思う。思った所で結局はやり込められるのがオチなのだけれど。何とか高月に一泡吹かせる事は出来ないだろうか。しかし、僕は高月が何に動揺するのか分からない。僕は彼については何も知らない。元々、興味がなかった所為もあるけれど。高月は嫌と言う程、僕の事を分かっているのに。
僕は胸ばかりに気を取られていて気付いていなかった。こちらはフェイクであった事に。不自然に膨らんだ下着。あの膨らみの中身こそが彼の言う"お仕置き"であった事に。
晩餐会は何事もなく過ぎ、別室での談話を挟んでダンスパーティが始まる。僕は、知り合い数人と談笑しながら、華やかなドレスを着たご婦人達を鑑賞する。"女性"として生きていたならば、僕もあんな風に着飾って、母の誕生日を祝っていたのだろうか。伴侶と楽しそうに踊る姉達を眺めながら、ふとそう思う。
着飾った僕にダンスを申し込む男達。その中から一番好みの男を選び中央で華麗に舞う女の僕。踊りながら会話を楽しみ、息が合えばこっそり二人で抜け出し、一夜のアバンチュール。姉達が結婚する前に、よくしていた話だ。一夜のつもりが本気の恋になり、結局、嫁いで行った姉達は、女としての人生を謳歌している。
別にそれが羨ましいわけではないけれど。高月に女と自覚させられてからの僕は、時々、「自分が女として生きてきたならば」等と考える事が多くなっていた。