(仮)執事物語
第2章 柔らかな炎〔葛城〕
「すみません。あやかお嬢様のご希望にはお応え出来ないかも知れません」
葛城さんはすまなそうな声色でそう言った。
何となくは分かっていたけれど。
そう言われてしまうとやはり寂しい。
「じゃあ…。その分、今日はずっと一緒に居てくれる?」
私が俯いてそう言うと、葛城さんは『畏まりました』と答えてくれた。
「それでは早く買い物を済ませてしまいましょう?」
そう言うと彼はアクセルを深く踏み、少しでも早く目的地に着くようにとスピードを上げた。
デパートの駐車場に車を停めると、葛城さんはキョロキョロと辺りを見回す。
私は不思議に思って首を傾げていると、彼はシートベルトを外し、私のシートの背凭れに手を掛けた。
そして身を乗り出すと私の唇に不意打ちのキス。
軽く触れるだけの唇は、チュッという音を立てて離れていく。
私が驚いて目を見開いていると、彼は目を細めて私の頬を手の甲で撫でた。
「そんなに驚かなくてもいいでしょう?恋人同士なのですから…」
そう言って微笑む葛城さん。
私はその笑顔に胸がドキドキと高鳴ると同時にもっと欲しいと思ってしまう。
「そんな顔をしないで下さい。もっと貴女が欲しくなってしまいます」
そう言って彼の指先が私の唇をなぞる。
葛城さんも同じ気持ちなのが嬉しくて、思わず笑みを浮かべる私。
彼の目が優しく細められる。
「お楽しみは後にとっておきましょう?」
そう言うと葛城さんは車を降り、助手席側へと回ると扉を開けてくれた。