(仮)執事物語
第6章 聖夜に誓いのくちづけを〔高月+葛城〕
「お帰りなさませ。若旦那様」
そう言って家令である葛城が、元部下であり、現在は自分の主人である高月に頭を下げる。それを高月の腕の中にいるゆきがチラっと流し見て口元に笑みを浮かべた。
「留守の間の報告を伺いましょうか」
高月は、ゆきを抱き締めていた腕を解くと、葛城に向かってそう言った。
「畏まりました。では書斎で……」
「着替えたらすぐに参ります」
おかしなものだが、葛城の主人となった今でも、高月は彼に対しての敬語が抜けない。過去、恋の鞘当てをした間柄ではあったが、心の奥底では彼の事を尊敬していたからである。
尤も、それは葛城も同じで、唯一、自分以外に、ゆきお嬢様を任せられるのは、彼を措いて他にはいないだろうと思っていたし、最も信頼の出来る部下だと思っていた。
高月はゆきと一緒に部屋に戻ると、彼の代わりに執事となった、白河に着替えを手伝わせた。肌触りの良いシャツの上にジャケットを羽織る。
彼はゆきの額に口付けを落とすと、部屋で待っている様に伝え、書斎へと向かった。
書斎では既に葛城が控えており、高月の足音が聞こえて来ると、扉を開けて迎え入れた。
「お疲れ様でございました」
そう言うと葛城は、準備を整えておいた紅茶を高月に差し出す。高月はそれを受け取ると、窓辺に佇んでそれで口内を潤した。
相変わらず葛城の淹れるお茶は美味しい。自分もお茶の淹れ方には自信があるが、彼独特の茶葉のブレンドには敵わない。
「全く……。いつも憎い程に美味しいですね」
高月がそう言うと、葛城は『若旦那様のハーブティのブレンドには敵いません』と言って微笑んだ。