(仮)執事物語
第6章 聖夜に誓いのくちづけを〔高月+葛城〕
確かに、ハーブティのブレンドには自信がある。だが、それだけだ。
「それでは、留守にしていた間の報告を伺いましょうか」
高月がそう促すと、葛城は彼が出掛けてから帰宅するまでの間の出来事を報告した。訪問者の有無、その日行われた邸内のメンテナンス箇所、従業員の働きぶり。そして"ゆき"の事。
「はぁ……。相変わらず貴方を求めているのですね……」
「申し訳ございません」
「いえ、貴方が謝る必要はありません。しかし……、毎晩あれだけ愛して差しあげていると言うのに、まだ、足りないのでしょうか……」
そう言うと高月は溜息を吐いた。
「足りないわけではないと思います。ゆきお嬢様は貴方を愛しておいでです」
「そうでしょうか」
「そう思います。貴方に付けられた痕をそれは愛しそうに撫でておられますから」
葛城はそう言って微笑んだ。葛城とて苦しい筈だと高月は思う。かつての恋人が、他の人のものとなり、自分の許には戻らない事が分かっていながら、身体の関係だけが続くのだ。
蛇の生殺しの様に。
「謝らなければならないのは、私の方ですね……」
そう言うと高月は、また一口お茶を口に含んだ。
「いいんだよ。雅哉……」
「葛城……さん……」
二人はどちらともなく近付くと、引き寄せられる様に唇を重ねた。
誰も知らない真実──。
葛城と高月の秘密の関係。これは地獄の果てまで、誰にも知られずに持って行かなければならない秘め事。しかし、二人はそろそろこの秘密をゆきに打ち明けるべきだと話していたのだった。