(仮)執事物語
第6章 聖夜に誓いのくちづけを〔高月+葛城〕
「そうでした。ゆきお嬢様の背中に一つだけ、印を残しておきました」
乱れた着衣を整えながら、葛城は高月にそう伝えた。それを見つけてゆきを攻めてやれと言う事なのだろう。
「分かりました」
高月も乱れた着衣を整えながら、そう返す。そして書斎を出て行こうとする葛城を呼び止めると、もう一度、彼に口付けた。
「ん……」
暫く、互いの唇の感触を味わう様に戯れた後、"チュッ"という音を立てて、それが離れる。
切なげに揺れる瞳を交わした後、葛城は書斎を出て行った。
高月に燻りを残したまま。
結婚してから、葛城は最後までしてくれなくなった。煽るだけ煽って、寸での所で止められる。
そこから先は、『ゆきを愛せ』とでも言うかの様に。いや、そう言うつもりなのだろう。
高月は燻った熱を解放するべく、ゆきの居る部屋を目指す。葛城が残した痕跡を辿る為に。彼女を愛する事で、葛城と繋がる為に。
部屋に入ると、ゆきは窓辺に佇み、庭を眺めていた。明日はクリスマス・イブ。12月に入ると庭師達が邸の木々を華やかにデコレーションし、邸を訪れる者達の目を楽しませる。
正門から玄関まで続く道に沿って植えられた木々には電飾が施され、イルミネーションで有名な街の物にも引けを取らない程であった。
高月はそっと彼女に近付くと、彼女の後ろから手を回し、腹の上で両手を組んだ。
「何を見ているのですか?」
そう言って彼は、彼女の髪に口付けを落とす。ゆきは振り返ると、夫の頬に口付けを返し、『イルミネーションよ』と答えた。