(仮)執事物語
第8章 カウントダウンは甘く蕩けて〔葛城〕
休みが取れたからと言って、葛城が私を邸から連れ出したのが、午後の三時頃。それからあれよあれよと言う間にここへ連れて来られた。
「本当に素敵なお部屋ですね」
葛城は、仲居さんが淹れてくれたお茶を一口含んで喉を鳴らすと、そっと目を閉じる。
「偶には都会の喧騒を離れ、このような静かな場所で自然の音に耳を傾けるのも良い物ですね」
葛城が、しみじみとそう言ったので、私も彼に倣って、ソファに身を預け目を閉じてみた。
すると、風が木々の葉を揺らす音、遠くで誰かが玉砂利を踏締める音、そして柱時計の振り子の音が耳に流れ込んで来る。
暫くその音たちに耳を傾けていると、その中に規則的な寝息が混じっている事に気付いた。
そっと目を開けて隣に座っている葛城を見ると、いつの間にか眠ってしまった様だ。
いつも忙しくしている葛城。せめてここに居る間はゆっくりして欲しいなと思う。
私は彼を起こさない様にゆっくり彼の身体を自分の方へと傾けさせると、彼の頭を自分の腿の上へと置いた。
脚に感じる彼の頭の重みを愛しく思う。
私は、彼の張りのある艶やかな黒髪をそっと撫でてみた。そう言えば葛城の寝顔を見るのは初めてかも知れない。
ベッドを共にしても、執事である彼が私の部屋で朝まで過ごす事はないからだ。
(これは……結構貴重かも……)