(仮)執事物語
第2章 柔らかな炎〔葛城〕
チェスターコートは彼がいつも着ている執事服とシルエットが似ている為、アウトラインは変わらない様に思えるが、ネクタイをしていない葛城さんはとても新鮮な感じがする。
「それなら、このマフラーが似合いそう」
そう言いながら手近にあったカシミアのマフラーを手に取る。ボルドーに近い、深いブラウンの地色にマスタードイエローの細いラインが入ったそれを当ててみると、彼が選んだコートの色にそれはとても良く映えて見えた。
私が満足気に頷くと、彼は嬉しそうに微笑み、中嶋さんに向かって『では、この一揃いを』と伝える。
中嶋さんは洋服を受け取ると、タグを外し、部屋の隅に設けられている試着室の扉を開き、葛城さんへその服を手渡した。
葛城さんはそれを受け取ると、試着室の中へと消える。
彼が着替えている間、中嶋さんと他愛もない話をして笑っていると、あっと言う間に着替えた葛城さんが試着室から姿を現した。
「もう着替えたんですか? もっとゆっくりされていれば宜しいのに……」
中嶋さんがそう言うと、葛城さんはチラリと中嶋さんに視線を流し、『何人たりとも、あやかお嬢様と二人きりにはさせたくはありませんので』と答える葛城さん。
ひょっとして…。
やきもち?
「はいはい。それでは楽しんで来て下さい」
そう言うと中嶋さんは、葛城さんの着ていた執事服を袋に詰め、彼に手渡した。
私達は中嶋さんに見送られ、デパートを後にすると、人で賑わう街へと繰り出した。