(仮)執事物語
第8章 カウントダウンは甘く蕩けて〔葛城〕
私の顔は、もうすっかり蕩けているに違いない。恐らく彼もそれに気付いているのだろう。
唇が離されると、それを確認するように彼が私の顔を覗き込む。私は無駄な抵抗だと知りつつも、恥ずかしくて顔を背けた。
案の定、葛城の大きな掌に両頬が包まれ、彼の方へと向きを戻されてしまう。間近で彼の顔を見るのが、何となく恥ずかしくて目を伏せると、瞼に彼の口付けが降りて来た。
その唇は、両の瞼に優しく触れた後、鼻の頭に降り、両頬に、額にと顔中に口付けの雨を落とす。
そして私の唇に軽く触れた後、そっと離れて行った。
「雛美お嬢様……目をお開け下さい。さもないと、このまま襲ってしまいますよ?」
「目を開けても、閉じていても襲うくせに……」
「ふふっ。よくお分かりですね。でも、貴女がお望みでないのでしたら、我慢致しますよ?」
そう言うと彼は私の身体から、スッと離れて立ち上がる。
「あっ……」
彼の体温が離れてしまうと寂しくて、私は思わず声を上げてしまっていた。
「折角ですので、温泉にでも浸かっていらしたら如何ですか? 私はその間に荷物を片付けておきますので……」
そう言ってニコリと微笑む葛城。これは私が抵抗した事へのちょっとした彼の意地悪だ。彼は私が既に彼を欲している事を知っていて、そう言う事を言うのだ。
「もう……葛城の意地悪!」