(仮)執事物語
第8章 カウントダウンは甘く蕩けて〔葛城〕
じんわりと胸が温かくなり、思わず葛城に抱き付く私。彼は私の背に手を回し、背中をポンポンと叩くと『急にどうされました?』と言った。
「有難う。葛城、大好きよ」
私が彼の胸に頬を擦り寄せながらそう言うと、彼の体温が上昇した気がした。
「雛美お嬢様……。お願いですから……私を煽らないで下さいませ……。お食事が頂けなくなってしまいますよ?」
苦しそうに葛城がそう言って私の身体を引き離そうと肩に手を置いた。
「そ……それは困るわ」
こんな贅を尽くした宿の食事は、きっと美味しいに決まっている。温泉宿の醍醐味は、良いお湯と美味しい食事なのだから。
私が慌てて身体を離すと、葛城はクスッと笑う。そして、部屋に戻る様に私を促した。
リビングに戻ると、囲炉裏に火が起こされていて、その周りに膳が並べられていた。
葛城は、仲居さんに『いいお湯でした』と言って囲炉裏の傍に座る。私も後に続いて座ると、仲居さんが料理の説明をしてくれた。
近海の海で獲れた海の幸、地元の野菜を使った煮物や、焼き物、椀。料理も器もどれも素晴らしく、私達は美味しい料理に舌鼓を打った。
懐石料理は、茶会にでも出なければ、私は食べる機会が殆どない。邸での食事は洋食が多いからだ。
和食に合わせて、日本酒も少しだけ頂く。スッキリとしてそれでいてお米の甘味の感じる、白ワインの様な口当たりの美味しいお酒だった。