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第6章 カオル

あるときカオルから、
タカさん主催のバンドクリニックがあるのだが、
自分はヴォーカルをするので
私にギターで参加してくれないかと、
お願いされた。

私は好きでギターを弾いてはいたが、
自己流のギターだし、これまでバンドも
気心知れた幼馴染とだけ組んでいたので、
人前で、初めてのメンバーと組んで、
クリニックなんて…
とんでもないことだった。

しかし、カオルの思いは強く、
何度も何度もお願いされて、
仕方なく私は引き受けた。

しかし、バンドクリニックを受ける曲が、
タカさん作曲のFLの曲であることを
聞いた時は、深く深く後悔した…

バンドクリニック当日。

楽器店の地下、レンタルスタジオ
壁の一部が、ガラス張りで、
タカさんは、ガラスの向こうで、
ヘッドホンを手に、
スタンバイしていた。

今思えば、まるで映像で見る
レコーディング風景さながらだ。
曲はミディアムテンポで、
ギターはコーラスを効かせた
アルペジオが繰り返される。

普段タカさんが弾いているところを
今、私がタカさんの前で弾いている…と、
思うだけで、緊張はピークに達し、
私のギターは、いつもにも増して
めちゃめちゃだった。

クリニックのアドバイスも
何も耳に入らなかった。

ガラスの向こうのタカさんの表情が
優しすぎて、、、
どこか穴にでも入りたい気分だった。



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