あなたの色に染められて
第14章 臆病者
『おまえはラテな。』
『どうも。』
焼き肉屋さんを出ると近くのコーヒーショップに入った。
私を席に座らせると勝手に私の分も買って席につく先生
『で 本題な。』
椅子に背を凭れかけさせると何も聞いていないのに話はじめた。
『俺と一緒にアメリカ行かないか?』
『また 学会ですか? 』
学会最終日L.A.がどうたらって 話してたっけ。
『違う。向こうに俺と住まないかって話。』
『はい?えと…私と?』
強引で自分勝手なのは知っていた。
でも、話始めた内容は耳を疑うほど唐突で
『向こうの病院に呼ばれてんだよ。勉強がてらに来ないかって。移植とかあっちは盛んだろ。璃子に俺の助手っていうか秘書って言うか…俺の担当で来てくれないかなって。』
話に相づちを打つことも出来ない。
『口開いてるけど…聞いてる?』
『きっ…聞いてますよ!それならあっちの病院の人にやってもらえばいいじゃないですか。』
『だよな。でもおまえ英語勉強し直したいんだろ?いいチャンスじゃないか。』
『…そうですけど。無理ですよ。私お金ないですし。』
そう言うと先生はひとつ息をついて
『住むところは俺と一緒。旅費は病院負担。オレの秘書扱いとして給料もな。』
捲し立てるように話始める。
『用意してもらえる部屋が広そうなんだ。バスルームも3つぐらいあるみたいだし。ルームシェア的な感じ?イヤなら他に借りてもいいけど…』
…条件は悪くない…でも
『ちょっと待って下さい。急に言われても無理ですよ。』
身を乗り出して話を制すと先生はクスリと笑って
『まぁそうだよな。でも行くのは来年の夏ごろ。そっから2年か3年。夏前までに返事くれ。』
『考えは変わりませんよ。』
離れたくはない…
『男か?お前の顔をブスに大変身させてくれるお前の男に遠慮してか?』
京介さんと…
『違いますよ!』
カップをスッと下ろしてまっすぐな眼差しが私を捕らえる。
『…璃子?俺は泣かせない。前にも言ったよな。』
『…』
『泣かせたら遠慮はしねぇって。』
『…先生』
『まぁゆっくり考えろ。焦って決める話じゃねぇから。』
『…絶対に行きません。』
クスッと笑って席を立ち私の髪にポンと手を置いて
『ほら行くぞ。』
相変わらず 切り替えが早い先生はもう扉に手をかけていた。