あなたの色に染められて
第17章 運命のイタズラ
窓の外はすっかり闇を落として
蛍光灯のせいかな。やっぱり少し青白い頬。
スッと手を伸ばして頬に触れて
『……京介さん。』
呟くように呼んでみる
ゆっくり目を開けた京介さんは
目に力か入っていない。
『……直也。まだいたの?』
直也さんに向けられた眼差しの間にいる私には視線もあわせずに
『美紀ちゃん。悪かったね。色々と。』
やっと 私に気づいた?
ほんの一瞬目が合うと不思議そうに私に会釈した。
『……。』
そのあとも 私とは目線が絡み合うことはない。
『……どうして?』
だって。
私たちの笑いあった日々を忘れるなんて。
お互いを求めて重ねた体も
そのあとの“愛してるよ”の一言も
私を包み込んでくれたその大きな手も
なんだったの って
私がいないともうダメだって。そう言ってくれたよね。
********
『ケンタくんとママがボール遊びしてたのよ。そしたらそのボールが道路に出て。』
『ケンタが飛び出したから 京介さんがケンタを…』
『…ケンタくんは?』
『外傷はないみたい。一応小児医療センターに運ばれたみたいだけど 明日少し検査して何もなかったら退院だって。』
『……よかった。』
『璃子。もし 記憶がなくても京介さんを問い詰めたりしちゃダメだよ。』
『どうして?』
『京介さん混乱しちゃうでしょ。意外にさ すぐに思い出すかもしれないし…』
『でもね。璃子。思い出さないこともあるからね』
『一生思い出さないこともあるの?』
『…あるって。それも先生には聞いてみた。』
私は大きくため息をついて天井を見上げた
**********
京介さんは 普通に直也さんと話をしているが 時折 頭をおさえて痛みに耐えているようで
『パジャマと歯ブラシと……下着? 美紀ちゃん 。あとは何が必要?』
『寒いから羽織れるものとか?』
私は必要な物を頭にインプットして あとで取りに行くつもりだった
でもね。京介さんは
『じゃあ それ 遥香に明日持ってこさせて。』
用意をするのは視線の端にも入らない私じゃなくて
『遥香さんに?』
『他に誰がいるんだよ?俺んちのカギ持ってるやつ』
京介さんの記憶のなかの彼女は私じゃない。私たちを悩まし続けた遥香さんだった。