あなたの色に染められて
第17章 運命のイタズラ
面会時間の終わるアナウンスが流れ 璃子と直也と病室を出る
『…あっ。川野先生…』
ナースステーションでパソコンに向かっている先生に声をかけると手をあげながら私たちのもとへ来てくれた。
『…お疲れのところすいませんでした。璃子を連れてきてくれて』
首を横に振りながら
俯く璃子の頭にポンと手を置いて
『他の先生に聞いたよ。美紀ちゃん 璃子を助けてやって。』
『…はい。』
川野先生を目にした璃子は 涙をポロポロと流し始めた。
『…覚えてないって。…先生。』
璃子をそっと抱き寄せた。
胸に顔を埋めて白衣を少しだけ掴んでポツリと呟く璃子はとても小さくて
『…笑っちゃうよね。……笑っちゃう』
璃子は気を張っていたんだと思う。病室であんな台詞を聞いたのに涙ひとつ流さずにいたんだから。
『…璃子。』
こんな小さな体でこれから大丈夫かって。少なくとも直也もそう思ったんだと思う。私の手をギュッと握りしめてきたんだから。
川野先生の繊細の手は璃子の背中と髪を安心させるように撫でて
こんな時に不謹慎なのはわかっているけど
いつもクールな顔して 感情を表に出さない川野先生なのに。って。
優しい目を私にまで向けてくれて
きっと“愛されてる” って“守ってやりたい”ってこういうことなんだ。って 。
どうしてだろう。思ったんだ。
『まぁ。ゆっくりな。焦んなよ。』
正面玄関まで川野先生は送ってくれて
私たちは直也の車に乗って荷物を取りに京介さんの自宅に向かった。
璃子は小さく息を吐いてハートのキーホルダーが付いたカギで解錠し ゆっくりとドアノブを回して玄関を開けた。
『……ふふっ。やっぱり汚いなぁ』
璃子は車の中で泣き続けていたのに 玄関に入ると いつもそうなんだろうな。脱ぎっぱなしの京介さんの靴を並べて
シューズボックスの上にカギを置いて洗面所に向かった。