あなたの色に染められて
第17章 運命のイタズラ
『うぃ~す』
みんなお構いなしに病室にぞろぞろと入っていくと わざとらしく大きなため息をついて
『はぁ。なんだよお前ら。うるせえっつうの』
『なんだよ。すげぇ元気じゃん 。見舞い来て損したわ』
ベッドのの背もたれに凭れかかるように座る京介さん。
顔色も良くなっていて 昨日よりも体調は良さそう。
背の高いみんなに埋もれている私は一番後ろから その笑顔を見つけてホットひと安心した。
もし 思い出してくれていたら…
淡い期待を込めて彼の瞳を追うけれど
…目が合ってしまう人は 一番合わせたくない女性で
ベッドの横に置いてある たった1つしかない丸イスの特等席に鎮座して
勝ち誇ったような微笑みを私に向けて
『京介 ちゃんと横になって。』
背もたれを倒しながら 京介さんの体に手なんか添えて
しっかり彼女になっちゃってるし。
…そう。これが現実。
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頭が痛いのかな。時折 こめかみに掌を押し当てて 眉間にシワを寄せてる。
頭を強打したって言ってたから
それが 私を忘れた原因なんだろうな
足首の腫れはどうだったんだろ。大丈夫だった? まだ痛む?
左腕に繋がれている点滴はもう少しで終わりそうだよ
伝えられない言葉たちが私の胸に溢れてくる。
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『あら~。賑やかですねぇ』
看護師さんが新しい点滴を持って 私たちの間を縫うように入ってきた
邪魔にならないように私たちは談話室に移動すると伝えて廊下に出ていく。
『看護婦さん。ちょっと入院の書類でわからないのがあるんですけど…』
『どれですか?』
『……これ。承諾書って言うやつ』
『あっ。高円寺さーん。ちょっといいかしら。』
!!!! ……私?
『……はいっ』
『この書類 ちょっと確認してくれる?私事務方の仕事は全然だから。』
『あっ。……はい。』
みんなの視線が私に集まる。
ベッドサイドまでの たった1、2メートルの距離。さっきまで ものすごく遠かった距離。
『ど …どれですか?』
『……これなんですけど。』
たった一枚の紙をもらう手がこんなにも震えるなんて。
それが今の私たちの心の距離だった。