あなたの色に染められて
第17章 運命のイタズラ
『……ここに記入してください』
『……。』
昨日は布団の中に埋もれていて気づかなかった。
ボールペンを持つ指先にはケンタくんを守った擦り傷が見える。きっとその傷が腕の方まで続いてる
『…痛そ』
『……ん?』
承諾書を渡しながら 私の顔を覗きこむ。
『……。あっ。ごめんなさい。…指…』
『指?あぁ。…大丈夫ですよ。』
指をパラパラと動かしながら ……微笑んでくれた。
『………。』
『…ねぇ。医事科に…いた…よね? ここの。』
直也さんが背を向けて小さく力強くガッツポーズ。
『…えっ?』
思い出してくれた?
大きく縦に首を振り 私の目は期待に満ちあふれて
ううん。私だけじゃなかったはず。ドアの前で様子をうかがう いつものメンバーも期待したと思う。
『……だよね。なんか見たことあるなぁって思ってたんだよ。ドアのそばに座ってた子だよね。』
だけど 私に向けるその微笑みは集金に来ていたあの頃の
『…はい』
……そう。営業スマイルで
『…で どうしてこのメンツ中にいるの?』
『……。』
淡い期待はするもんじゃない。
知ってはいるけど知らない人。
病院のドアのそばに座ってるただの事務員。
たったそれだけ。
でも。
『…美紀の。……美紀の友達なんだよ。なっ。』
扉の前でこの状況を見ていてくれた直也さんが助け船を出してくれる。まだ希望はある。
『…っ。はい。』
私もぎこちない笑顔で。
『で…… 野球がすきなんだよな。…そう。…そう。…だから。』
京介さんは私と直也さんを交互に見ながら
『ふ~ん。これから見に行くんだ。』
『…はい。』
口を尖らせちゃって。そうこの顔。
『いいなぁ~。俺も行きてぇなぁ。』
…行きたいんだよね。私は知ってるよ。
『ダ~メ。私とお留守番。』
私の目の前で彼の首に腕を回して抱きついちゃって
やっぱり望みはそんなに早く叶うはずもなくって
『……なんだよ』
意外に冷ややかな態度をとる京介さんに少しだけ心を救われたけど
直也さんは寂しそうな目で私の肩をポンと叩き 部屋から出ようと促す。
『……痛っ。…なんだよこの痛み』
眉間にシワを寄せてこめかみを押さえる彼は まだ彼女の腕の中だった…