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あなたの色に染められて

第18章 Re:Start




『なにあれ。』

『そう!先週も。』

『戻ったの?…記憶』

『いや。まだです。』

そう。あの二人は先週からこんな感じで。

しゃがみこんで二人仲良くボールを磨いたり どっちが早くボールを拾えるかなんて競争してみたり  冷たい水にワーキャー言いながら そりゃ楽しそうにコップ洗ったりなわけで。

『京介 いい顔してんじゃん。』

『そうなんっすよ。』

記憶を無くす前より仲良しに見えるわけで。

『で、璃子ちゃんはなんでヘルメット?』

『…ハハッ。さっき 京介さんが無理矢理。璃子ちゃんあの状態だから抵抗できなくて。』

『…あそこで必要か?』

そりゃ思うわな。だって今二人は洗い物してんだから。

ボールも飛んでこない 更衣室脇の簡素な洗い場で。そこが二人の定位置になり始めてて。

ちっちゃい璃子ちゃんが 京介さんを見上げる度に ヘルメットの鍔がズルッと落ちてきて すすぎ担当の京介さんがイチイチ鍔をあげる。で その都度 顔を赤らめる璃子ちゃん。

『ありゃ。ヘルメットプレイだな。』

そう言われれば納得。

『あんなにヤツが楽しそうにしてるってことは?』

佑樹さんとグルッと回りを見渡せば

『あっ。』

『はい。ゲームオーバー。』

肩で息した 仁王立ちの遥香さんがいるわけで。

『京介ー!!』

時間にしたら5~10分。

二人きりの時間って言っても 遥香さんに見つかるまでのほんの少し。

京介さんは大きなため息ついて 璃子ちゃんの鍔をコツンと下げて 遥香さんの方へ歩き出す。

でも その表情は璃子ちゃんから離れていくごとに無表情になり 俺たちの横を通りすぎる頃には こめかみを手のひらで押さえて眉間に皺を寄せ またいつもの冷たい視線なわけで。

『美紀ちゃんからなんか聞いてねぇの?』

『…。切ないっすよ。』

ヘルメットを直しもしないで 俯く璃子ちゃんの顔は きっと涙色で

『もう。…思い出さなくっていいって。』

『……はっ?』

『あの笑顔が見れれば 元気になってくれれば 私なんてどうでもいいって。』

そうなんだ。璃子ちゃんはそういう子なんだよ。

『はぁ。……っとに どうにかなんねぇの?』

胸の前でパチっと手を叩いて 残りの洗い物を片付ける璃子ちゃんは 俺たちよりも相当強い。

いや。違うか。

……愛してんだな。すっげぇ愛してんだな。

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