あなたの色に染められて
第19章 約束
『おはよう 美紀!』
『あっ。おはよ。』
朝からテンション高い璃子を見たのはずいぶんと久しぶりだった。
職場は一緒でも なかなか顔を会わせることもない 。
たまに書類と白衣を大量に抱えて医局に入っていくのは見かけるけど 声をかけられるほどの暇も時間もないのが私たちナースの宿命で。
『なーにヘルメット被って走り回ってんの?』
京介さんの大きなヘルメットを被ってる その姿はもうすっかりお馴染みで。
『えへへ。』
また 随分とご満悦で
『なーにヘラヘラしてんだか。』
『ちょっとこっちこっち』
直也に借りたベンチコートの袖を引っ張ってスタンドへと連れていかれる
『もしかして 記憶……』
『戻ってません。』
じゃあ なによ。
『…あのね。先週 ドライブしたの。』
『コンビニまででしょ。直也にきいたよ。』
それから璃子は車中での会話を話してくれた。
璃子からしたら すごい決心だったと思う。
記憶の戻っていない京介さんに 今の気持ちを全部 言葉に紡いだんだもの。
『ちゃんとね。愛してます。って言ったの。思い出したときに わかってくれるかなぁ。って。』
『愛してます かぁ。』
『今まで一度も伝えたことないんだけどね。告白のつもりで言っちゃった。』
だからだね。そんなにスッキリした顔して。
『ホントは少し悩んだの。でもさ。約束したんだ。ウソは付かないって。』
『ウソ?』
『うん。記憶が戻ったときに 私の気持ちを素直に話したでしょって言えるじゃない。ウソは付いてないよって。』
もし……もし戻らなかったら?
違う誰かを想像してたら?
璃子にそう聞いてもきっと同じ答えだろうな。
いつか。いつか。って……
『そんな顔しないで。美紀。もうね 今できることは全部やったの。…記憶が戻っても 戻らなくてもどっちでもいいの。』
璃子。アンタだよ。ヘルメットで顔隠して。自分の気持ち押さえて。
『私の気持ちは変わらないから。』
ホントに変わらないだろうね。
『あ~。寒いねぇ。コーヒーでも買いにいくか?』
『うん。コンビニまで仲良く歩いていきますか。
『……ヘルメット。さすがに脱いでよ』
『え~。 脱いだら京介さんに怒られる。』
『……バカ!』
……この笑顔をずっと見れると思ってたのに
……神様なんていなかったんだ