あなたの色に染められて
第19章 約束
『たっちゃん。アイスも食べた~い』
『もう いいだろ。』
『たっちゃんが食べたいって言ったんじゃん』
『おじさんには1口で十分なんだよ』
あれから2ヶ月。
私はもう球場には行っていない。もうあそこは私が行ってはいけない場所だから。
あの日 奈落の底へ落ちた私を先生は包み込み助け出してくれた。
迎えて入れてくれたその胸は思ってた以上に暖かくて 心地よくて 私をただただ安心させてくれた。
私は大分前からもう限界だったんだと思う。
『どんだけ食うんだよ。』
『いいじゃん。甘いものは別腹だしぃ』
『…太るぞ。』
『いいも~ん。あっ。すいませーん。この抹茶アイスとぉ』
こうやって 私の横で溜め息混じりに笑って 私のワガママを聞いてくれる3度目のデート。
帰りに寄った少し光の少ない夜景を望める郊外の高台。
『……キレイだね。あっちが海?』
『だな。あの辺真っ暗だもんな』
いつもみたいにホテルから一人で望む夜景とは違う。
『……璃子。』
後ろからゆっくりと抱きしめられて 頬を寄せて
『うふふ。たっちゃん暖かいね』
『……だろ。』
昼間は暖かいけどまだ夜は少し冷える5月のはじめ。
私は抱きしめられた手の中でクルッと向きを変え 京介さんより少し小さな背中に腕を回して 彼の胸に顔を埋めて
『こっちも 暖かいね』
『……俺にかわいい顔見せて』
彼は もうなにも飾っていない まっさらな私の首に手を添え 引き寄せ
私は目をそっと閉じ
二人にとってはじめてのキスをした。
『……たっちゃん。』
額を合わせて鼻先があたるそんな近い距離が今の私たちの距離。
『……チビ』
『……もう。意地悪。』
『……チュッ。好きだよ。璃子。…大好き。』
『……私も……大好き。』
たくさんの涙を 少しづつ先生が笑顔に変えてくれたんだ。
淋しくって苦しかった私の心のピースを1つづつゆっくりと埋めてくれる。
もう 汗の匂いの胸じゃない。ほんの少しツーんとする消毒液と甘いムスクの香り
それが今の私の指定席。