あなたの色に染められて
第20章 点と線
『信じられるか…』
『あぁ。璃子ちゃんなら。…なんとなく…。』
夏樹さんは店での俺たちの様子を目を細めて話してくれた。
その話のどれもが 想像できる話で
きっと コロコロ表情を変えて 俺との会話に華を咲かせ
おいしい おいしいと体を揺らしながら 取り分けてやった料理をペロッと平らげ
時に見つめ合い テーブルの上で指を絡めて囁きあって
『極めつけは 璃子ちゃんが席を立った時だよ。』
『……ん?』
夏樹さんはワイングラスをテーブルに置いて クスリと笑って
『お前 ずっと璃子ちゃんの後ろ姿を目で追ってな…もとの顔に戻らないんだよ。……微笑んだまま。』
『…フッ。…どんだけだよ。』
『…だろ。あの娘といるときのお前は今までのクールな京介じゃなかったから。』
夏樹さんは俯いて目を閉じて。きっとその情景を思い出してる
『…みんな…そう言うんだ。俺じゃないみたいだったって』
いつの間にか店は閉店し カウンターだけ照らされていた
『一度だけ お前一人で来たのは覚えてるか。』
『……。』
俺の空いたグラスに赤ワインを注ぎながら
『クリスマスプレゼント買ってきたって。店 何件もハシゴして見つけたって。…すごく満足そうにな。』
『…それって。』
『わかるだろ。記憶がなくても。…あれだけいっつも 指を添えてたんだから。』
『ハートの…ネックレス。』
璃子ちゃんの白い肌に揺れるハートのトップはいつもキラキラ揺れていて
夏樹さんはフッと優しく微笑んで
『店に来た日も “二人の絆”だって璃子ちゃん言ってたよ。これがあれば私は大丈夫って。』
車の中で彼氏の話をしてくれたときも ずっとトップを触ってた
そういうことだったんだ。
璃子ちゃんはずっと小さなサインを俺に送り続けていたんだ。
ずっとずっと 俺が思い出すのを待っていたんだ。
なのに俺は遥香を彼女と思い込んでいて
どれだけ悲しませたのか
どれだけ傷つけてしまったのか
『…情けねぇなぁ。そんなに惚れてたオンナを覚えてねぇなんて。……最低最悪だな。』
……記憶喪失。
どうせなら全部消してくれたらよかったな。
記憶も…この体も…