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あなたの色に染められて

第21章 遠い空




『……あぁ。ダル。』

梅雨時の生ぬるい風が体にまとわりつくこの季節

あれから1ヶ月。相変わらず 仕事は毎日山のようで 帰りはいつもこの時間。

スーパーで割り引きされてる 残り少ない惣菜からツマミになりそうなものをいくつか選んで ビールを数本手に取り会計を済ませる。

途中 堪らずビールを開けて飲みながら空を見上げる。

ロスは朝の5時か……。

時差17時間の距離。

いつからかスマホの時計を見るたびに計算してた。

俺の記憶が戻った日 アイツはロスへと旅立った。俺ではない誰かと…。

美紀ちゃんに託した俺の連絡先。

あれからまだ璃子から連絡はない。

どんなに思っても 璃子はもう俺のモノじゃない。

…わかってる。…わかってはいるんだ。

でも スマホを確認する回数は多くなる。

そして また空を眺める。

この空は璃子のいる空に繋がっていて

…会いてえなぁ

あの笑顔を瞼の裏に浮かべた。




カチャ

『ただいま。』

玄関のかごにカギを放り込み 誰もいない蒸し暑い部屋に足を踏み入れる。

『リモコン リモコン…っと』

エアコンのスイッチを入れて早くさっぱりしたくて風呂に向かう。

シャワーを浴びてバスタオルを首から下げる。

『快適じゃん。』

たいして美味しくないスーパーの惣菜ををテーブルに並べてビールを開ける。

『あっ。醤油 醤油。』

キッチンの調味料置き場の小さなクリスマスツリーの横が醤油の定位置で。

フラッシュバックしてたときもこの位置に小さなクリスマスツリーが鎮座してたから。

璃子が買い揃えた名前もわからない調味料の数々。俺 こんなに調味料使えねぇし。

璃子が一番似合ってた場所。エプロンをして俺のために料理を作ってくれてた場所。

正月過ぎてもロウソクを灯すわけわけもなく片付けるわけでもなく

“いいの。来年まで飾っておくの。”

そう言って微笑んでいた横顔。

あんな安いオモチャみたいなロウソクなのにな。

『もう 夏だっつうの。』


このクリスマスツリーも ネクタイピンも 飾っていた二人の写真も…璃子に関わるものすべてがクローゼットの奥の段ボールの中から出てきた。

遥香がきっと隠したのだろう。

捨てなかったことに感謝するしかないか…


璃子のぬくもりを少しでも感じていたくて

相当 格好悪い男だな……俺

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