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あなたの色に染められて

第21章 遠い空




『……コーヒーどうぞ。』

『……んー。サンキュ』

大きく両手を挙げて伸びをする彼。

『まだ かかりそうなの?』

この部屋に住み始めてからまだ1ヶ月しかたっていないのに大量の資料が山積みされた先生の机。


『あぁ。これだけやっちゃう。』

こっちに来てから毎日のように大きなオペがあり 少しでも自分のものにしようと日々 努力を重ねている先生。

そんな頑張り屋さんの先生は病院スタッフにもとても評判がいい。

私も少しでも先生の期待に添えるように毎日過ごしていた。


『じゃあ 私先に休みますね。』

パソコンの画面から目を離さない彼。

部屋に戻ろうとすると

『……キャッ』

腕を捕まれ たっちゃんの膝の上に引き寄せられた。

『……ちょっと充電』

『……うん。』

背中にたっちゃんのぬくもりを感じ 頬を寄せ合う

『……璃子』

私のお腹に回った彼の手が 私の指先に絡まる。

細くて長い 京介さんとは違う繊細な指。

『あんまり無理しないでね。』

『大丈夫。……今充電してるから』

頬にチュッと軽くキスをして 私の首筋に手を添え後ろに向かせてゆっくりと唇を重ねる

『……充電完了。』

額を合わせて微笑み合う。

『早く寝てね。……おやすみなさい』

『おやすみ…璃子』

もう一度唇を重ねて 私は静かに部屋を出る。


たっちゃんと一緒に住んで1ヶ月。付き合い始めて4ヶ月。

私はまだ彼の胸の中で朝を迎えたことがない。

誘われたこともなかった。

たっちゃんは私がまだ気持ちの整理ができていないことを察していてくれてるんだと思う。

だって家族以外にまだ連絡を取っていないのだから。

そう。京介さんを思い出してしまうから。


そんな彼の優しさに私は甘えていた。


私は自分の部屋に戻りベッドに身を沈める。


いつかは彼に抱かれるだろう。

もし 誘われたら私は彼の背中に腕を回すつもり。

こんなに大切にしてくれる彼に応えたかった。

もう 私は京介さんのモノじゃない。

たっちゃんのモノにしてもらいたかった。

この階段を登りきったら きっと私は京介さんを忘れられる。

思い出に変えられるはず……

京介さんの記憶の中にいない私

私の記憶の中からも消し去りたかった

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