あなたの色に染められて
第22章 揺れる思い
『結婚も……ちゃんと別れたからって。』
『ずっと 連絡待ってるからって…』
記憶が戻った日が 日本を発った日だったなんて……
それを聞いたのが たっちゃんに抱かれたあとだったなんて…
いつかは思い出してくれるって思ってた。それなら何年だって待てた。
でも 結婚するって…そう言ったよね……
だから私はゲームセットだって自分に言い聞かせたのに…
『もう……遅いよ』
『……でも 』
『…… すごく大切にしてもらってるの。』
『…わかるよ。でも…』
『この間…はじめて……たっちゃんだけのモノになったから…だから。』
言わなくても良いことなのかもしれない。でも 私の今の気持ちを理解してもらえるのには一番早い気がして。
『……そか。』
『…だからもう私は…』
たっちゃんに染められれば染められた分だけ 京介さんを忘れるんじゃないかって。
だから 私はたっちゃんを好きになるように努力してるんだから。
『じゃあ なんで泣いてるの?……幸せなんでしょ。』
『…美紀。』
『……大事にしてもらってるなら涙なんか流れないんじゃないの?』
『…お願い。……もう…もう忘れたいの』
『……璃子。』
『……なにも言わずに救ってくれたから。…私には裏切れないよ。』
たぶんこの言葉が今の私のすべてで。
苦しみも悲しみも全部まとめて包み込んでくれたたっちゃんを私は裏切ることなんて出来ない……
『…ハァ。…わかったよ…璃子』
そのあとの電話からは京介さんの名前は出てこなかった。
でも 私には出来なかったんだ。
美紀から送られた京介さんの連絡先はまだ私のスマホから消されていない。
もう京介さんの胸には飛び込むことはできないのに… それでも私の指は“消去”を押せない。
たっちゃんに抱かれて たっちゃんの色に染まり始めているのに 京介さんの色が鮮やかすぎてきれいに染まらない。
『ほら 璃子遅れるぞ!』
『待って~。……あっ。』
たっちゃんの腕を引き寄せて
『ねぇ。いってきますのチュー』
『ハイハイ』
重なる唇。
早く忘れたくて。京介さんの色をこうして少しずつ消していく
……裏切れない…裏切っちゃいけない
たっちゃんに触れる度にそう自分にいい聞かせた。