あなたの色に染められて
第22章 揺れる思い
『なぁ 京介…それってどういうことよ』
事態がさっぱり飲み込めない俺たちに
『…簡単だよ。簡単。』
と 俯いて静かに笑い
『直也がさ 璃子のことに全く触れなくなったから こりゃなんか知ってんな~って。』
すげぇ観察力。結局 喋っても喋らなくてもバレてたわけで
吹っ切ったように美紀も
『…元気ですよ。璃子。向こうの生活にもだいぶ慣れたみたいで…』
『そっか…。アイツがんばり屋さんだからな』
璃子ちゃんが絡まないと見せないあの優しい目で
『…無理してなきゃいいけど。』
この京介さんの優しい顔を見ると俺たちもフッと璃子ちゃんを思い出した
『たくさん書類抱えて走り回ってそうだよな。』
『あ~。わかるわかる。ブカブカのヘルメット被って走ってた感じな』
『そうそう。で なんにもない所で躓いちゃったりして』
璃子ちゃんのあの笑顔がみんなの脳裏に浮かんだと思う。誰にでも向けてくれたあの笑顔
『美紀ちゃん。ごめんね。気を使わせちゃったね。』
美紀に優しく微笑んで肩をトントンと叩く京介さんは やっぱり男前で
『ずっと待ってるって俺 言ったでしょ。だから 美紀ちゃんは郵便屋さんしてくれただけで充分。』
『…ごめんなさい。…璃子には伝えたんだけど…』
首を振りながら涙を流す美紀は京介さんがどれだけ愛していたかを知っている。
『美紀ちゃん。謝るのは俺。巻き込んで悪かったね。』
そして美紀は璃子ちゃんの揺れる心も知っていて
『…あの子 …今の彼を裏切れないって…そう言ってばかりで…』
京介さんはそれでも笑みを浮かべて
『…大事にしてもらってんだ。』
長谷川さんは京介さんの肩をポンと叩く
『…だな。野球ばっかのお前とは違うんだよ。』
『デートも球場かこの居酒屋だからな』
『…だから京介は辞めろって言ったのにな。美紀ちゃん。』
俺たちは璃子ちゃんを失ってからの京介さんを知ってる
『それに……ちゃんと振られてないもんな。お前。』
そうなんだ。ある日突然愛しい人の存在を忘れて 愛しい人が他の誰かのモノになってから思い出すなんて
『…じゃあ 今ここで振られちゃいますか?』
酒の力を借りた俺の女は スマホを片手にニッコリと微笑んで時計を指差した。
時計の針は0時を指していた。