あなたの色に染められて
第22章 揺れる思い
『…じゃあ 今ここで振られちゃいますか?』
オイオイ勘弁してよ…
俺の女はなにを言い出すんだよ
さっきまでニッコリと微笑んでいた美紀。今度はじっと京介さんを見据えて時計を指差したままさらに煽る。
『この時間なら璃子電話出ますよ。』
いつも電話を始める時間だけど…
っていうか …今話したって璃子ちゃんの気持ちが追いついてないって言ってたろ
『…お互いにちゃんと話して 新しい道に進むのかスッパリと振られるのか!さぁ どうします!』
前屈みになってジロリと京介さんを睨み さらに詰め寄るコイツは相当酔ってる。
新しい道も 振られるのもどっちも同じ意味だろ…
…マジで誰だよコイツに日本酒呑ませたの
『いい加減にしろ。』
美紀の肩をグイッ引っ張って壁に凭れかけさせるけど すぐに俺の手を振り払い 京介さんをまっすぐに見据えて
『連絡ほしいんですよねぇ。璃子と話したいんですよねぇ。』
『…あぁ。そう言ったね。』
美紀とは対称的に京介さんはこんな状況でも平然と答えて
『じゃあ もう一回想いを告げましょうよ。それで振られるならちゃんと振られればいいじゃないですか。』
『…フッ。…美紀ちゃん。…さっきからずっと俺が振られるのが前提なんだけど…』
少し延びた前髪から覗く目はまだ微笑んでいて
『…私は璃子の想いを知ってるの。遥香さんに何言われたって 自分の気持ち押し殺して京介さんの回復だけを願い続けてたのに!』
唇を震わせて いつ落ちてもおかしくないほど 目に涙を浮かべて
『記憶喪失とは言え …最初に裏切ったのは京介さんじゃないですか。』
何も言わない京介さんにさらに追い討ちをかけるように
『先生はそんな璃子のことを救ったんです。 …忘れられなくて…苦しむ璃子を全部で受け止めたんです。』
俺の腕を掴んで必死に訴えるコイツは 酒の力をわざと借りたんじゃないかって
『…京介さんがそんなんじゃ…璃子がいつまでたっても前に進めないじゃない…』
…俺は泣きじゃくる美紀を胸に抱いた。
京介さんは目を伏せて鼻で笑うと
『わかったよ。…振られるよ。』
そう言って美紀に微笑んで
『ありがとう 美紀ちゃん。電話繋いでくれる?』
覚悟を決めた京介さんは美紀の顔の前に手を伸ばし優しく微笑んだ