あなたの色に染められて
第22章 揺れる思い
♪~♪~
……ん?
休日のベッドの中。枕の下のスマホに手を伸ばす
♪~♪~
画面を確認しなくたってわかる。だって この時間にかけてくる人はただ一人
♪~♪~
…帰れなかったんだ
たっちゃんのぬくもりがないことを感じながら 目を瞑ったままスマホを耳に当てた
『……もしもし』
「……。」
『…もしもーし。……あれぇ?』
この部屋ってWi-Fi環境悪かったっけ?
なかなか開かない目を無理矢理こじ開けて画面を確認するけど電波に問題はなさそう。
『……おーい。…聞こえますかぁ?』
「……フフッ」
『…え?』
電話の向こうの相手は美紀じゃない。
「……おはよ。」
それは…ずっと拒んできた人…
『……ウソ。』
「……おはよ。……璃子。」
ずっと忘れようとした人
『……京介さん』
心臓がドキドキして 胸が苦しくなる。
…どうして?
「……フフッ。お前 今 口開いてんだろ。」
記憶をなくす前の京介さんだった。
『…あっ。』
だって 口調が戻ってる。この遠慮のない言い方。
「……おはよ。…起こしちゃったみたいだな。」
『…うん。起こされちゃいました。』
「ハハッ それはそれは…でも…安心した。元気そうで。」
あの日と変わらない私を包み込んでくれる声
『うん。…京介さんも。…少し酔ってるの?』
電話の向こうの賑わい。きっといつもの居酒屋かな。
「…少しね。酒の勢い借りて電話してもらった。」
『…らしくないですね。…体…大丈夫なんですか?』
「……フフッ。もう大丈夫。」
『…良かった…』
仰向けになり 目を瞑り京介さんの声に耳をかたむける。
「お前こそ そっちの生活慣れたか?」
『うん。大丈夫。』
「そか…頑張りすぎんなよ。」
『…うん。』
いつもの壁に凭れて俯いて前髪を何度も触って。その奥にある目は優しく細めていて そんな情景が目に浮かぶ。
「……なぁ。璃子。」
こうやって名前を呼ばれる瞬間が好きだったなぁって 閉じ込めていた感情が少しずつ表れる。
不思議と緊張はほぐれていた。
『…はぁい。』
「……リコ。」
『……なんですか?』
「…り~こ。」
『…ウフフ。…は~い。』
「……璃子。」
『……京介さん。』
……ただ名前を呼びあうだけであの頃の甘い時間が戻ったような気がした。