
あなたの色に染められて
第26章 Irreplaceable person
『風呂どうぞ~』
先にお風呂に入ってもらっていた京介さんと入れ替わるようにお風呂をいただいた。
『…ふぅ…』
お湯に浸かり目を閉じる。この後のことを考えると胸がドキドキする。
『…はぁ…』
部屋に入ると自然に動いた私の体。
干しっぱなしの洗濯物をたたみ お腹を減らした京介さんに食事を作り 雑誌を片付ける。
入院の準備に訪れたあの日に私の気持ちと一緒にベッドサイドに置いた小さなクリスマスツリーは 私の一番の居心地のいい場所に鎮座していた。
なんで醤油の隣なんだろう…なんて思ったけど しっくりとしていたのも事実で。
『…っていうか。ホントにどうしよ。』
いつまでも湯船に浸かってるわけにもいかない。でも 胸の鼓動はさっきよりも大きくなっている。
…前の私とは違う。別の人のモノになったこの体。
お風呂場の鏡に自分の体を映す。こんな私を京介さんは受け入れてくれるだろうか…
「もういい大人なんだから京介さんもわかってるはずだよ…自然に身を任せてごらん。」
今日美紀に言われた言葉。きっと 京介さんだって遥香さんと… なんて余計なことまで考えてしまう。
*****
『…風呂長すぎ』
ビール片手にソファーの真ん中に座り 雑誌を捲っている京介さん。
『…あの…ドライヤーが…』
私はタオル片手にそう言いかけると 京介さんがドライヤーを持ち上げた。
『…髪の毛乾かすの俺の仕事じゃなかったっけ?』
『…フフ。忘れてました。』
床にちょこんと座り 目を瞑り彼の指先を感じる。
『明日どこいきたい?』
『京介さんは?』
『璃子に聞いてんの。』
後ろから髪の毛を持ち上げてパラパラと落とすように風を当てる。
『…一緒にいられたらそれで…』
『あ~ そういうのナシ。残り3日大切に使おうぜ。』
パチンとドライヤーのスイッチを切ると
『ヨイショっと』
『……うわぁっ』
脇の下に手を入れられてヒョイっと持ち上げられ彼の足の間に座らされる。
『璃子が決めろ。』
間近にある京介さんの顔に落ち着いていた胸の鼓動がまた大きく鳴り響く。
『…え…』
『決めろって。』
『…でも…』
本当にどこでもいいのに…
ため息をひとつ吐いた京介さんは
『俺にはワガママ言ってくれないの?』
『…え…』
私を見詰めるその瞳が悲しみに染まっていた
